2006.03.31 Fri
あなたに 魔法がかけてある あの日 あの時 私があなたに 魔法をかけた 今度は 私が魔法にかかる いま ここで あなたの言葉の 魔法にかかる |
2006.03.30 Thu
あなたは そこで待ちなさい 私が行くから 待ちなさい 私はあなたに教えない 私はあなたを助けない でも 迷うことを許してあげる 恐れることを許してあげる 疑うことや 見失うこと 傷つくことも許してあげる 傷 癒えるまで休みなさい 一緒にいる とはどういうことか それだけ あなたにわかってほしい 目が覚めたなら 行きなさい 忘れることも 許してあげる |
2006.03.29 Wed
植物の幸い 水をもらって ここで育つ どこへも行けない どこへも行かない 花をつければ褒められて 散れば名残を惜しまれて いつか上手に忘れてもらい 音もなく 枯れる 万が一 種を残すことがあっても 大丈夫 水をもらいさえしなければ 未来永劫 芽吹くこともない |
2006.03.28 Tue
君からの返事が来ない 待っている私は 用もないのに出かけてみたり 気を紛らわせるために友達に電話したり 忘れるために眠ってしまおうとしたり レシピを片手に時間のかかる料理に挑戦したり 手つかずの押し入れの片付けを始めたり ただ時間を埋めるためだけにテレビを見たり 読めてなかった厚い本を引っぱり出したり いつもより大きめのボリュームで音楽をかけたり 何かもっとすることはないかと部屋の中をうろうろしたり は しない 他のことでは換えられないと知っているから 君をおもうことのほか 何もしない |
2006.03.27 Mon
わざとじゃなくても だめ 相手の方が痛かったら ごめんなさいは言うんだよ 小さな口元を固く結んで 涙を溜めた目が床をにらんでいる けんかではない はしゃぎすぎてぶつかっただけ わかっているのに見過ごせない 鬼の首でもとったように 小さい者の前に立ちはだかる 私 いつもそう 本当は 「ゆるすこと」を教えたいのに 「ゆるされないこと」ばかり教えてしまう ごめんなさいは言えたのか あのとき いい気になって あなたを傷つけた 忘れられるわけがない もうひとつ 確かに覚えていること ごめんなさいが まだ言えてないということ |
2006.03.26 Sun
花の気配がする サクラの胎動が この季節 いつも私を おかしくする 咲いてしまえば むしろ どうということはない ただ 咲く前の 柔らかなものが充満した息苦しさが 私の喉元を ゆるやかに締め付ける 樹のそばに寄るのが恐ろしい 寄ればそのまま 引き込まれて 咲かせるための糧にされるに違いない 死んだら海に還りたいと願う私は だから サクラが恐ろしい ここでお前に私のすべてをやるわけにはいかないのだ 還さなければ いつか 海に 還さなければ 見えない触手を振り切って 家に帰り 鍵をかける そして もう 花が十分に咲ききるまで 外へ出ない 花の終わりには 降りしきる花びらを浴びて 私は 口づけを待つ姿勢で サクラに詫びる 散る花びらに 何かを連れ去られそうな気もするが 散り終えると やはり 何ひとつ失われていないことに落胆する 咲いてしまえば 私など もう用はないのだ |
2006.03.25 Sat
病の子を 抱きしめて 熱を測る その3分間の沈黙に 君への返事を考えている |
2006.03.24 Fri
うつむく額 美しい眉つき ドアにもたれかかり 所在なげな足元 大人の立ち話につき合わされて いつもなら何か口を挟むころだけど 今日は そうだね 上手だよ 黙って 髪をもてあそぶ ふと上げる瞳は どこか遠いところを見るふうで 名残を惜しむ矛先が こちらに向かわぬようにと さりげなく私の視線をかわす そのくせ 全身で話を聞いて 寂しさを押し殺している 「メールでいいから、新しい住所、教えてね」 「フフ みんなそういうね」 やっと 屈託のない いつもの笑顔 この無邪気さに 何度 見とれたことだろう 「握手しよ」 車の窓に差しのべた手を 幼い手は しっかりと 握りかえした 見送る曲がり角 手を振りながら おどけた顔で小首をかしげ 名残惜しさを上手に演じる ほら これでもう 私はあなたを 忘れられない おくれ毛がかすかに揺れて 7歳児の別れは 想像以上に繊細で 思った通りにしたたかだった |
2006.03.23 Thu
あれから 些細なことにも すぐに涙が出るようになり わたくしのけんぜんなにちじょうせいかつは 機能不全 |
2006.03.22 Wed
それはわたし あのとき あなたの髪をなでたもの それはわたし あの朝 カーテンの隙間から 朝一番にあなたを照らしたもの それはわたし あの夜 ふと澄ました耳に 遠くかすかに聞こえたもの それはわたし あの道端で あなたの靴に小石をからませたもの それはわたし あの箱の中で あなたの指先を傷つけたもの それはわたし あの海で 遠く見晴るかす目に 蜃気楼のように揺れたもの それはわたし あの空で 永く尾を引く飛行機雲の 一番うしろで最初に消えたもの それはわたし あの日 あなたの頬に残った最後の涙を乾かしたもの それはわたし あの夕べ 湯気にまぎれて スープより先にあなたの唇に触れたもの それはわたし ぜんぶわたし |
2006.03.22 Wed
「日月火水木金土! わぁ、2秒で言えた。 一週間って、はやいねぇ。」 「今度の土曜日、なかったらいいのに。 金曜日の次はすぐ日曜日だったらいいのに。 ウルトラマン最終回になるの、ぼく、いやなの。」 「あと二つ、幼稚園行ったら 黄組さんもおしまい。 ぼく、泣いちゃうかも。」 いいよ 泣きたい時は 好きなだけ 泣いていいんだよ |
2006.03.21 Tue
ここへくるようになって 夜毎 不思議なイメージに包まれる 眠りに落ちる瞬間に 闇の中から何か来る 高いところから降りてきて 少しずつ広がりながら私を包む 私に触れる ようでいて どこにも触れずに取り巻いている 手を伸ばしても何の感触もなく ぼんやりとした光に抱かれているようで ただ心地よい そのうち私は眼球の底から眠りに溶けて そのあと光がどうするのか いつも知らない その光が 昨日 はじめて 来なかった 朝になり 目が覚めて あれはあなただったのだと気付いた |
2006.03.20 Mon
存在の前には 言葉など どれほどの意味を持つものか。 目の前で起こっている現象を 言語に置き換える必要などあるのか。 言葉で捉え直すことで とりこぼす真実や事実がある。 それらからは目をそらし ようよう形になっただけの骨組みの そのすべてが もしあなたに伝えられたとして 私は あなたと 何を分かち合いたいのだろう。 |
2006.03.19 Sun
昨夜 上の子どもが珍しく夜泣き 部屋をのぞいてみると 布団の上に座り込んで激しく泣いている 「どうしたの」 抱いてやるとしがみついてきた こわいよー こわいよー 泣きながら なぜか何度も後ろを振り返る目は 固く閉じられたまま まぶたの内に いったい何を見ているのか だいじょうぶ、だいじょうぶだよ こわいよー こわいよー 目、あけなさい こっち向いて ほら、大丈夫だから それからなお ひとしきり泣いて やっと おそるおそる目を開けた ことを思い出し、 一家団欒の夕食中 水を向けてみる 昨日の夜 すごく泣いてたね どうしたの きょとんとした顔 何も覚えていないのだ 「泣いとらんよ」 泣いてたよ すごく泣いてたんだから と 何か思いついたふうで 「あ ぼくねぇ おかあさんがほかのひととけっこんするゆめみたの だからさみしくて ないてたの」 飯を吹きそうになる のをこらえて 「なんだそれ そういう時は おめでとうって言うんだよ」 あとで考えても 意味不明の返答 |
2006.03.18 Sat
あなた と わたし の 違い を 述べよ。 |
2006.03.17 Fri
夕食時
娘の後ろ髪に取り憑いて何度も引く者あり そのあたりをつかんで闇の底へ連れ去ろうとする 朦朧としてゆく意識の中で その力に抗おうとしつつも 不意を食らって バランスを崩し 椅子から転げ落ちそうになる娘 その度 めそめそ泣く 「これ、起きなさい」 声をかけると気配を消す 娘はしばし我にかえる お友達が来て お昼寝できなかったからね もうごはん 食べなくてもいいよ 無理しなくていいから ねんねしなさい イヤー タベルー ゼンブタベルー あのなぁお母さん、 ぼく今度は電車のってどこか行きたい そうねぇ、もうすぐ春休みだから お天気のいい日にどこかゆこうねぇ 5秒間兄の相手をしたすきに また怪しき者の気配 引くばかりではなく ときどき小突く あっと思う間もなく 茶碗の中に顔を伏せ 飯にまみれてまためそめそ泣く娘 ほら、もうやめなさい ごちそうさま言いなさい 娘の首筋に取り憑いた者が にやりと笑う 顔と手をぬぐい 抱えて部屋まで運び ようよう着替えさせ 布団をかける オハナシ カケテ CDのスイッチを入れて振り返ると 娘はすでに闇の底 異界で何を見てくるのか こんな夜は決まって何度も泣いて起きる |
2006.03.16 Thu
言葉は 嘘だから 嫌い。 でも 嘘だとわかっているところが たまらなく好き。 |
2006.03.15 Wed
いつも すてきな言葉をありがとう 感謝を込めて 連鎖 私のつぶやきに あなたが添えてくれた言葉 それに応える人 そして 私 もっと レンサ しましょう つながることで きっとどこまでもゆける |
2006.03.14 Tue
「おかあさん、塩ってなんでカライの」
海の水でできてるからだよ 海の水をくみ上げて 広い砂の上に広げる 何度も繰り返してよく沁みた砂を 掻いて 掻いて 集めて もう一度水を与えて濾し 大きな釜で煮詰めて結晶にする 何千年も昔から 人は海を煮詰めてきた 地球で一番広い面積を占めるもの すべての命の源を 白く固めて口にしてきた シオとヒト 酷似した元素組成 海に囲まれた私たちの国 命に囲まれた国 すべての海はつながっているのに ところによって その塩の味は違うという話 「ほんならチョコレート味もあるかな!」 話を最後だけ聞くな。 |
2006.03.13 Mon
百貨店の子どもの遊び場に
新型ロボット登場 1歳児がお座りしたくらいの大きさで 人の気配を感じると 「ネエ ナニカ オハナシ シテ」 「オナマエ オシエテ」 見向きもしない周囲の子ども 無関係な会話だけが ときどきセンサーにかかる 「ナアニ モウイッカイ イッテ」 「ワカラナクナッチャッタ」 転がってきたボールに問う 「イヌ ト ネコ ドッチガ スキ?」 「オヤツ ト ゴハン ドッチガ スキ?」 思うように回答が得られないと 「ネエ ホカノ オハナシ シテ」 話題をゆだねられたボールも 誰かの手に握られて行ってしまった ひとりの子どもが近づいて ロボットの顔の横に口を寄せ 何事か囁いた 「ワカラナクナッチャッタ」 聞こえていない その辺りが耳ではないらしい 「ネエ オマワリサン コワイ?」唐突な質問 間があって 「イイコニシテタラ コワクナイヨ」安易な解答 それでも一瞬 いいこ ではないじぶんが ひやり 「ネエ ホカノオハナシ シテ」 |
2006.03.12 Sun
すっぱいですか しょっぱいですか まさか 甘くはないでしょう 辛いでしょうか まだいけますか いやな匂いはしませんか 味わうたびに後を引く かすかな苦みと舌触り どんなに忘れたつもりでも きっとあなたは思い出す どこにも魔法はないけれど 涸れない泉がここにある 深い所から溢れ出し あなたを潤す 私の水 |
2006.03.12 Sun
くらいへやにいると いろいろおもいだしてしまうから こんやは へやのあかりをつけたままねむる |
2006.03.11 Sat
だめだ 涙が止まらない その手の一振りも 目を上げて見られない 「まだ二週間もいるんだから」 いたずらな瞳が笑って わざと隣に座る 思い出が多すぎて涙があふれる のではなく 足りないのだ あなたを失う代償に この手に残るはずのものが あまりに少なくて 愕然とする 今日からしめやかに時が経ち やがて私は あなたに手を振りながら これからも 一切のものと 失うためにのみ出逢ってゆくことを確認するのだろう |
2006.03.10 Fri
子どもの頃に見た図鑑
見開きいっぱいに 進化の歴史をわかりやすく綴る文章の下 海となく陸となく おびただしい生物が極彩色で描かれていた そのひとつひとつの生物の右肩には 小さな活字 誰が いつ 名付けたのか 空想で描かれた太古の異形のものたちはすでに それぞれの種を識別するための名を持たされていた だれもみないのに だれもしらないのに どれももういないのに ヒトは名付ける動物だ と そのとき思った 吐き気がした 名付けることが恐ろしくている 自分の所有物でもない物に 次々と名を付ける傲慢な生き物 自分もその一員であるということが 身悶えするほど恨めしく疎ましい 子どもが生まれたとき 名を付けることを迫られた 子という所有物に名付けることを許される特権 しかし目の前の存在は 何者かに所有されているという自覚を持っているとは思えなかった せめてもの思いで 上の子は ひとりで成長するように 下の子は 人々の中心で守り育てられるように どちらにも 私から一番遠いところへ育って行くよう願いを込めた 夫に言わなかった これが本当の意味 |
2006.03.10 Fri
かわいらしいことを言うその唇に 含ませてみたい毒がある 0.1ミリを操るその指先で 私の中に起こしてほしい事件がある |
2006.03.09 Thu
みてみて お母さん もう上着いらんから こんなに速く走れる 寒かろうと着せていた上着を 脱ぎ捨てる季節が来たことを あなたは 心底 喜んでいる いつか 遠い日の春に もっとたくさんのものを脱ぎ捨てて駈けて行く そのためのエチュード |
2006.03.08 Wed
声ニ出シテ読ムベシ。
隣の席の客にイカリングフライ定食が届いた。 その客が、ひとつ食べ終わらぬ間に 向かいの席にもイカリングフライが運ばれた。 見ると相席の男はミックスフライランチで そこにもやはりイカリングが二つ。 この速さでイカリングが増え続ければ 注文したばかりの私のハンバーグ定食が届くまでに 店中の客がイカリングフライを食べさせられるかもしれない。 「お母さん、あのおじちゃんが食べてるドーナツ僕も食べたい」 「マカちゃんも」 「シッ! 子どもたち。 あれはドーナツでありません。イカリングフライです。 見ててごらん、今に恐ろしいことが起こるから。」 ほら、あの音。この匂い。まだ揚げている。 今にあの窓口から おびただしいイカリングフライが送り出されるのだ。 逃げなくては。 転ぶ子どもの手を引いて 店の外へ出なければ。 ドアを引き開け、振り向きざまに見た トレーに山と盛られたイカリングフライとウェイターの光る目。 料理人よ、やめろ! イカリングフライを揚げるのは。 走り出す私の背中に サカサカとイカリングフライの迫る音がする。 泣き叫ぶ子どもを両脇に抱え 人影のない通りを駆け抜ける。 料理人よ、やめろ! イカリングフライを揚げるのは。 イカリングを揚げずに、ハンバーグを焼くのだ! 降りかかるパン粉 むせ返る油の匂い 心なしかぐったりした子どもたちを引きずって私は走る。 走れ、走れ、交差点の向こうへ! 走れ、走れ、境界の向こうへ! 信号の変わる気配に 私は猛然とスパートをかける。 背後に感じる熱気が薄れ 匂いのない風に迎えられて 向こう側へ、渡る。 「やったぁ! やったぁ! お母さん、はやかったね!」 赤信号に止められて すごすごと引き返すイカリングの群れに スローモーションで手を振る子どもたち。 「ばぁいばぁぁぁい、いぃかぁりぃんーぐぅーう」 イカには悪いが、 あんな形状のものにまみれて死ぬのだけは、ごめんなのだ。 電光石火デ返信セヨ! |
2006.03.08 Wed
やさしい返事が届いて また 眠れない夜を抱える。 |
2006.03.07 Tue
あなたの言葉は もどりの付いた針 身動きするほどに深く食い込む このまま抜けば血が出るかしら 針の血をていねいにぬぐい 場所を変えて もういちど刺してみる |
2006.03.07 Tue
「きっと水色がよく似合う」 新しい人の言葉。 春物で見つけたら、 迷わず袖を通そうと思う。 |
2006.03.06 Mon
恋をしているせいで 食欲がない。 その横で 何かの異変を察知している 子どもも 食欲がない。 |
2006.03.06 Mon
出逢ったのは あなたの方が 先。 |
2006.03.05 Sun
幸いなことに 水はあんまり深くない 足首くらいの淀んだ流れから 膝上あたりの道端に したたる泥を掻きあげる 盛られた泥はつるりと広がって 水が引くとともに生まれる凹凸 その上に また一掻き 流れにそってカミからシモへ 生きることもこんなふうに 後ろを向いて 後始末をしながらだと どんなにすっきりするだろう などと思ってみたり しながら また一掻き 明るみに出た汚泥の中にうごめく蟲 藻のすき間に潜り込もうと身をよじる その上にもう一掻き 水の中に 落ちたばかりの白い花を見つけて ふと 仰ぐ サザンカの枝 そっとすくったつもりでも 鋤から落ちた花は泥にまみれた こんなことなら なんどもあった 身の内から澱を掻き出すような作業に没頭して ひととき 君を忘れる |
2006.03.05 Sun
「ガイコクがあったら、すぐに言ってね」 こっきのえほん を開きながら言う え、外国って全部だよ このご本に載ってるのは全部外国 「ちがうの、アメリカとかじゃなくて、ガイコク」 ん、あのね、外国じゃないのは、ほら、この日本だけ あとはアメリカも中国もインドもイタリアも 日本でないヨソの国はぜんぶ外国なの 5歳児に教える 「外国」の定義 「マカちゃんと、イッセくんと、おかさんと、おとさんは、なかま」 あー、おしいね それは「仲間」じゃなくて「家族」なんだわ 「カゾク?」 2歳児に教える 「家族」の定義 |
2006.03.04 Sat
吸い込むときは風 味も匂いもない 吐くときは息 ときどき甘い 飲むときは水 味も匂いもない 吐くときは言葉 ときどき苦い |
2006.03.02 Thu
通園バスに乗り込む3人の男の子 この春からは みな離ればなれになってしまう 一人は卒園 一人は転勤 一人残る我が子 という未来を知ってか知らずか このところ毎朝 最前列のシートに身を寄せ合って座る 最初の停留所なので 他にこどもはおらず いくらでも席はあるのに かさばる鞄やコートをつめ合って 3人真面目な顔でこちらに手を振る 「いってらっしゃい」 巣の中の子ツバメみたい ふふふ と笑い合う母親たち にもまた 近づく別れ |
2006.03.02 Thu
お昼寝ちゃんとしなかったら 晩ご飯の時ねむくなるでしょ 「うん」 お父さんと一緒にお風呂も入れないよ 「うん」 そんなのがいいの 「うん」 一緒にご飯も食べないし 一緒にお風呂も入らない人は そんなのお家の人と違うからね 「うん」 よその人だからね 「うん わかった」 そんならもうお外いきなさい よその子になりなさい 「わかった」 玄関ドアを開けると 裸足に靴を履いて上着も着ずに すぱすぱと2歳児は出て行った 居間の窓から玄関は死角 しばらく待つ ここから姿が見えないということは 車道の方には出ていない 廊下の窓にまわる カーテンを細く割って外を見た レースが邪魔でよく見えない こうしている間に車道に出たか 見知らぬ車が近づいて 次に会う時は遺体 居間に戻る やはり見えない もう誰かに手を引かれて あるいは抱かれて行ってしまったのか 息をつめて様子をうかがう玄関ドアの 向こうにかすかな 靴音 まだ そこに 居間に戻って待ってみる やがて 小さな頭が窓の向こうを動いてゆく そこで止まりなさい どこへ行こうか思案の風情に 裏道から近づくバイクの音 軒下へ逃げ込んで息を殺している 壁一枚隔てた向こうが 透けて見える気がした バイクが去ったのを見届けて そろりとまた姿を現す 見えない部屋のうちをうかがい 途方に暮れた肩 はやく 突然両手で顔を覆う はやく 目をこすり はやく 向きを変えて はやく 二三歩あるいたせいで はやく またもや死角に入る はやく 少し間があって はやく はやく 「うわぁーん」と泣き声 やっと 靴を履き、ドアを開けて迎えにゆける 試したのは こどもではなく 自分 |
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