スポンサーサイト
 --.--.-- --
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--:-- | スポンサー広告

 2006.07.02 Sun



声ニ出シテ読ムベシ。ソノ弐。




去る6月17日、家族にないしょで詩のボクシング香川大会予選に出場した私は、
午後5時39分、二階の部屋で水疱瘡に伏せるコドモの枕元に帰り着いた。

「ごめんね。お母さん帰ってきたよ」
「お母さん、痛いよ、助けてよー」

見ればコドモにかけた肌布団がこんもりと膨らんでいる。
そっとはぐって驚いた。
寝間着のボタンが弾け飛び、
そこに現れたのはコドモの半身の上に巨大に腫れ上がったひとつの水疱瘡だった。
高さ50センチまでふくれた半透明のドームは、何か膨大な水で充満し、
今にも大爆発を起こしそうだ。
「ご、ごめんね。お母さん、これは助けられない」
腰を抜かして後ずさりする私にコドモの言葉が突き刺さる。
「またどっか行っちゃうの」

「……え……?」

「お母さん、今日、どこ行ってたの。病気の僕を置いて、どこ行ってたの」
見ればドームは呼吸のたびにいよいよ腫れ上がる。
「しゃべらないで。しゃべるのやめなさい」
「答えてよ。どこ行ってたの。答えてくれないと、僕……!」

くっと息を溜めたその瞬間、
バーンとドームが破裂してコドモの上に水柱が立った。
と、そびえ立つ水のてっぺんが、
その鎌首をこちらに向けて、猛然と私に襲いかかってきた。
逃げ出した私はそのまま階下に転がり落ちる。
その後を追ってコドモの水疱瘡の水が駆け下りてくる。
裸足のまま外へ飛び出す私の後を、暴走する水が追ってくる。

 水疱瘡 暴走する水 水ボウソウ

そういう病気だったのかと、私はひとつ合点する。
暴走する水に追われて暴走する私をものすごい勢いで追いかける水疱瘡の水

逃げる私は後ろも見ず暴走、周りも見ず暴走、行き交う人の驚く顔も見ず暴走。
路地を駆け抜け大通りへ出る。
迫り来る車も見ず暴走、バイクも見ず暴走、トラックも見ず暴走。
そんな私を追ってくる水疱瘡の水も後ろも見ず暴走、周りも見ず暴走。

その先端は今やコドモの顔をして、うめきながら私に迫る。
「お母さーん、帰ってきてー」
許しておくれ。病のコドモを置き去りにした母を。
「お母さーん、帰ってきてー」
諦めておくれ。おまえの苦しみより自己実現を選んだ母を。
「お母さーん、帰ってきてー」
忘れておくれ。もうおまえに母はいないのだ。
ミレニアムの出産から五年と七ヶ月、子育てに邁進してきたこの母は、
三十代最後の半年に強く踏み切り板を蹴ったのだ。

コドモよ、おまえに今ここで、三つ言っておきたいことがある。

ひとつ。
どんな女を愛しても、追いかけるだけでは手に入れることはできない。

ふたつ。
人は所詮ひとり。おまえの名にはひとりで成長するようにという願いが込めてある。

みっつ。
この母が今どんなにおまえの元に帰りたくとも、こんな怖いことされたら帰れんでしょうが!お部屋に戻りなさいっ!





                          3分以内ニテ読ミ終エルコト。





スポンサーサイト
22:42:37 | 未分類 | コメント(0)

 2006.07.05 Wed












         自分の言葉は 自分の声で 自分で伝える














22:58:58 | 未分類 | コメント(3)

 2006.07.06 Thu












ふと あなたに会いたくなる

けれど 会いに行かない 電話もしない

ただ 会いたい気持ちを抱えて 会える時を待つ

それが 私に あなたに会う以上の価値をもたらすことがある














23:25:59 | 未分類 | コメント(1)

 2006.07.09 Sun






硬質なモノトーンのチャペルに染み渡る
イングリッシュハンドベルの音

その手の一振りが奏でる澄んだ響きに
私を思い あなたを思い あの人を思う

調べに乗って流れて行くものは
昨日であったり 明日であったり 今であったり

真剣なまなざしと せわしない手の運びから
その緊張感とはうらはらの柔らかな音色が広がり
この空間を音の光で満たす

そうなのだ

強く思うことでほどける感情があったり
くつろぐことで研ぎすまされる感覚があったり
幸せすぎて不安になったり
悲しみが心地よかったり

これでよい と 思う状態は しばしば アンビバレンツ

そして 感動はいつも 説明不能な現象











10:24:56 | 未分類 | コメント(1)

 2006.07.10 Mon





やっと硬くなったばかりの黒い外羽を光らせて
カブトムシ2匹
飼育容器の中を終わりなくさまよう
午前1時の雨音

永い眠りから覚めて
初めて口にしたゼリイの味
閉じることの叶わぬ瞳に映る
プラスティックの壁越しの赤い長靴

わずかばかりの木片と
防ダニ加工が施された昆虫マットが
身を隠す よすが










00:00:17 | 未分類 | コメント(1)

 2006.07.13 Thu
声ニ出シテ読ムペシ。ソノ参。





玄関を出たらやられた。
Tシャツの胸にぺったりと黄色いものが張り付いた。
あっと思う間もなく左肩に、次の塊が飛んで来た。
確かめようとする私の頭に、手の甲に、右腰に、
パイ投げのように黄色い絵の具の塊が飛んでくる。
慌ててドアを閉め、したたる黄色を手で受ける。
「しまった。久々にやられた」

夕日の光線が、ときどき液体化して飛んでくる。
この季節、この辺りでは風物詩。
沈みきる間際の太陽が、最後の力を振り絞るようにその光を凝縮させて投げてくる。
グレープフルーツ大の無数の液体光線が降り注ぐ街。
「今日のはちょっと濃いめだな」

付いてしまったら仕方ない。
ドアを細く開けて外を覗く。
と その5センチの隙間を埋めるように、また塊が飛んで来た。
ぺちゃっと音がしてドアの外が染まり、正確に私の右目が塗りつぶされる。
しみる目をぬぐい、外を見る。

あっ あれはヤマナカさん。
買い物帰りを襲われて、黄色にまみれて立ち往生している。
重い物でも買ったのだろう、肩から下げた大きな買い物袋も、
黄色い絵の具でずっしり重さを増している。
今日はサラダオイルお一人様2本限りの特売日。
荷物の重量は何キロくらいになってるだろう。
必死で顔を覆っていたが、ずり落ちかけた荷物を押さえた拍子に、
その顔面に液体光線が命中した。
よろけるヤマナカさん既に靴が埋まりかけ、足を取られて黄色の中に倒れ込む。
と ほとんど同時に表通りから聞こえるクラッシュ音。
ホラ、またシロウトさんがジコった。

この辺りの人は馴れているので、ひとつ飛んで来た時点で車を止める。
液体光線が飛んでくるのはせいぜい3分間。
急いでる時の3分はキツいけど、下手に動いてジコるのはバカらしい。
太陽が沈みさえすれば、どんなに積もった絵の具の山も、跡形もなく消えるのだ。
とりあえず今は身近な人命救助、ヤマナカさんの救出だ。
3分待てば消えるけど、まともに食らって窒息したのを3分放置したら死んでしまう。

手近にあった傘を握りしめ気合いを入れる。
ドアの隙間から傘だけ出してまず開き、その陰に隠れつつ外へ出る。
足元はもう黄色の海だ。
ぬるぬる滑って歩きにくい。
ばんばん飛んでくる塊に、傘はすぐ重くなる。
バランスとって歩みを進める。
突っ伏しているヤマナカさんまで約5メートル。

「ヤマナカさん、ヤマナカさーん、大丈夫ですかー」
黄色が積もってどっちが上か分からなくなってるヤマナカさんを助け起こす。
この辺が頭のはず。
見当つけて、黄色かき分けガバッとすくいあげる。
ぼたぼたと液体光線たらしてヤマナカさんが現れる。
「げほげほ。わぁキムラさん、すいません」
「大丈夫ですか、間に合った」
「いやぁ、やられちゃいました。油断しました。傘くらい持って出ればよかったんです   けど、今日はサラダオイルお一人様2本限りの…」
「ヤマナカさん、話は後です。とりあえずウチへ」

傘の重みが限界だ。
ぬるぬるした手をぬるぬるつないでぬるぬる立ち上がる二人をめがけて、
黄色い液体光線が容赦なく降り注ぐ。
身の危険を感じつつも思うように足は進まない。
「あ、サラダオイル」
「ヤマナカさんお願いです、3分経てば消えるんですから」
ぬるぬるの右手にぬるぬるのヤマナカさんぬるぬるの左手にぬるぬるの傘ぬるぬるの足元ぬるぬる進めてあと少しでぬるぬるの玄関。
と、そこで我々が目にしたものはぬるぬるの液体光線にぬるぬる塗り込められてぬるぬるのドアはぬるぬるの取っ手さえもぬるぬる埋もれたぬるぬるの壁。
「どこだ、ドアはどこだー!」
ぬるぬるの傘をぬるぬるのヤマナカさんに預けてぬるぬるの壁をぬるぬるかき分けぬるぬるのドアのぬるぬるの取っ手をぬるぬる探すぬるぬるの私の頭に背中に降り注ぐぬるぬるの液体光線に叩かれてぬるぬるの壁に塗り込められるぬるぬるの私。

これだから、玄関を西向きに取るのは反対したのだ。





                              息ツギニ注意ノコト。











20:50:33 | 未分類 | コメント(0)

 2006.07.14 Fri




動かない体
茶色の光沢
かすかな繊毛
仰向けであることが
より一層その死を際立たせる

伸びやかに生きることを許されなかった一匹のカブトムシが
夕方 小さな手で庭の隅に葬られた

土をかけながら
「去年のカブトムシはこのへんだったね」
少し離れたところを指差す子どもの目には
1年前の葬儀の様子が見えている

手を合わせ
「えっと、何だっけ」
思い出し
口の中でしばらく何事かつぶやいたあと
立ち上がり部屋に戻る子どもを無言で見送った

それから私は
晴天続きに葉を垂れて水を欲しがるアサガオに
三日ぶりの水をかけてやり
カブトムシを埋葬した辺りには
特に念入りに水をやった

真夏の夜7時は明るく蒸し暑い
熱のこもる玄関で
生き残ったカブトムシの飼育箱に覆いかぶさるようにして
いつまでも中を覗き込む子どもに
ゴハンだよと声をかけ
カーテンを閉めようと
ふと目をやった庭の隅

夕顔ではあるまいし
こんな時間に
新しいアサガオが一輪咲いている

今朝咲くはずだった花が
水を待っていただけかもしれないが
カブトムシを埋めた場所に一番近いツルである

間違いなく
弔いの花だと思われた











23:58:28 | 未分類 | コメント(0)

 2006.07.15 Sat





……あ、あの、イチノミヤチョウのキムラといいます。……はい……あの……あの……どこにお願いしたらいいか、分からないんですけど……はい……はい……あの、水が出るんです……水です。水が出るんです……足です。つま先から……はい……はいそうです……えっと、たぶん明け方くらいだと思います。でも、よくわからないんです。目が覚めたら、布団が濡れてて。でもそんな、ぐちょぐちょってわけではなくて。何か、冷たくて目が覚めて、あれ、濡れてるなと思って、触ってみたら足が濡れてて……違います違います、汗とかではないです……違います。そんな、違います。だって、下着とか、濡れてないし。足です……はい……あ、両足です。両方とも、足の指が濡れてて、歩くと、ずっと水の跡がつくんです。拭いても拭いても、止まらないんです……あ、いやそんなジャージャー出てるわけじゃなくて、ゆっくり滲みてくるっていうか……あ、いえ、痛みはないです……はい……はい。違います、血じゃないです。水です……あ、どうだろ、別に……いや、待ってください……あ、やっぱり別に匂いはないです。タオルでずっと拭いてるけど、普通の水って感じです……はい……はい……あ……どうしたらいいでしょう、靴、履けないし……救急車、ですか。あー……なんか、こんなんで救急車っていうのも、だって歩けるし、別に痛くないし……はい……あー、運転ですか……あ、やっぱ、それはちょっと……はい……はぁ、タクシー……は?……はい……あ、はい、ビニール……ちょっと待ってください……えっと……はい。あります。大丈夫です……はい。できると思います……はい。今から……あ、はい、30分くらいで行けると思います……はい……はい……診察券……保険証……はい……はい、分かりました。よろしくお願いします……はい……ありがとうございます……はい、失礼します……はい。どうも……。











23:03:40 | 未分類 | コメント(0)

 2006.07.16 Sun






疲れきった君が

そのすてきな笑顔と秘密のモノサシで

再び ぴたりと真理をはかり始めるまで

私はここで

とんちんかんな唄などうたって

のんびり待っていることにしようと思う











16:53:18 | 未分類 | コメント(1)

 2006.07.17 Mon






何もないところから言葉を紡ぎ出す
ことはできない
気持ちがあって それが言葉になる



何も考えない時間を意識的に作り出す
ことはむつかしい
心の中に思いがあって それは絶えず言葉になりたがる



何も考えないために
何もしないために
何かひとつのことに専念する



中身を出してビンが空っぽになった
と思ったら
実は空気に満たされていたように











22:22:56 | 未分類 | コメント(0)

 2006.07.18 Tue






探しても
みつかるかどうか分からないから
ここで偶然を待つことにした

みつけても
開けてみることはできないから
ただ中の気配をうかがうことにした

開けても
手に取って眺められるものではないから
すぐそばで見てることにした

手に取っても
あんまり触って壊したらいけないから
指先でそっと触れることにした

壊しても
無くしてしまってはいけないから
全部そこにかためておくことにした

無くしても
忘れてしまってはいけないから
メモを貼っておくことにした

忘れてしまっても
思い出せなくなるといけないから
メモを持ち歩くことにした

思い出せなくなっても
いつも何かを探しているような気がするから
あてもなくさまよってみることにした











08:55:42 | 未分類 | コメント(0)

 2006.07.20 Thu






塩焼きにしようと買って来たかますの腹から
ごっそりと卵が出てきた

流し水が洗うまな板の上
はらわたとともに掻き出す
長く満たされた肌色の卵嚢
不用意に深く差し入れた刃物の先をかわして
薄い皮膜はどこも傷ついていない

空っぽにした魚の胎内は思いのほか広く
洗っても洗っても濁り水がしみてくる

かますが死んだのは何時間前だろう
条件を整えればこの卵はまだ孵ったりするだろうか
それとも
母親の死からほどなく卵も生命活動を終えたろうか
などと
水を止めるのも忘れて
排水口にたまった臓物を眺めた

香ばしく焼き上がった魚に
みそ汁や酢の物など添えて
子らと囲む夕餉
箸を進めつつ
幾度か
柔らかな卵嚢の感触を
指先によみがえらせていた











23:44:43 | 未分類 | コメント(0)

 2006.07.21 Fri





               小さな
               夏の花
               ひと鉢
               揺れる
               車の中
               つれて
               かえる











14:59:12 | 未分類 | コメント(0)

 2006.07.21 Fri








前を向きなさい ちゃんと話を聞きなさい どうぞと言われるまで触るのはよしなさい
仕切るのはやめなさい 友達の意見を尊重しなさい 座りなさい 話が終わるまで待ち
なさい 指示された以外のことに熱中するのはやめなさい 早く終わったら見直しなさ
い 歩くのはやめなさい 勝手に片付けるのはよしなさい 友達を待ちなさい 友達に
譲りなさい 大きな声はやめなさい 落ち着きなさい 順序よくやりなさい おせっか
いはやめなさい 誰がやっても同じと認めなさい 細部にこだわるのはよしなさい 友
達に合わせなさい 周りをよく見なさい 言われた通りにやりなさい よく考えなさい








                              イタイノハダレダ!











20:47:11 | 未分類 | コメント(2)

 2006.07.22 Sat






文字を書く子ども
濃い鉛筆を握りしめ 真剣なまなざし
ひと文字ごとに深呼吸
書いている間は息を止めているのだ

書き終えて ほれぼれと見つめる絵日記の文章
声に出して読んでやると たまらなくうれしそうな顔をする

伝わるって うれしいね

文字には 君がここにいなくても 読んだ人に君を伝える力がある
録音機も再生機も必要ない
ただ 紙と鉛筆があればいい

文字の世界に ようこそ!
君の毎日に 文字が寄り添う 文字が割り込む
文字ではだめなこともあるけれど
文字でなければだめなこともある

文字の世界に ようこそ!
これから長い付き合いだ
ゆっくり しっかり 少しずつ 自分のものにするのがいい
文字は君から逃げない
君も文字から逃げるな

言葉に迷って憂鬱になる時も
伝わらなくて奥歯かみしめる時も
等身大の自分を文字に落とすことだけ
どうか誠実でいてください











23:22:53 | 小さき人たち | コメント(0)

 2006.07.24 Mon





君に会いたくて船に乗る夢を見た。実家からほど近いさびれた港に、私は立っているのだった。ふと思い立ったので、持ち物はいつも使っているくたびれた小さなバッグひとつだが、子どもたちは母に預けてきたらしく、一人なのだった。朝夕には2便ほど出る船も、こんな時間には数時間置きで、待ち合いには私の他に、いつからここで眠っているのか知れない白髪の老婆が長椅子に膝を縮めて横になっているのと、作業服のようなものを着て紙袋を隣に置いた中年の男が目を閉じて座っているだけだった。あとどれくらい待てば船が来るのかと時刻表を見上げたが、メガネをかけ間違えて来たのかぼやけてよく見えない。外したり、またかけてみたりしたが、どちらも意味ないようなのであきらめて、係員に尋ねようと窓口を覗いた。「しばらくお待ちください」と書かれた札が内側から立てかけられた窓口の奥は、すりガラスで遮られて様子が分からない。「すみません」と声をかけたが、返事のないことを予感していた。何度か呼んであきらめて、たくさん空いているベンチのどこかに腰掛けようと、待ち合いのドア近くまで戻る途中で老婆にスカートの裾を引かれた。思わず声を上げそうになり、胸を押さえて振り向くと、老婆の口元がかすかに動き、聞き取れない声がこぼれ出る。「何ですか」耳を寄せた私に、さっきより少し大きい声で繰り返されるしわがれた声。「その腹の子、置いていけ。」気付けば私は身重なのだった。「船に乗るんやろう。腹の子、預かってやる。」老婆に掴まれたスカートの裾が重い。作業服の男に助けを求めようと見ると、いつの間に席を立ったのか姿がない。「放してください、放してください。」筋張った指がきつく握りしめるのを押し開きながら振り向くと、窓口の中に係の女が座っているらしいのが見えた。「あの、すみません。」すがるようにカウンターに手をかけながら、目の端に老婆が長椅子から転がり落ちるのを見た。「お乗りになりますか。」赤い爪の手が白いチケットを差し出し、私は金を払うことを思いつきもせぬままそれを受け取るのだった。裾を放さない老婆を引きずって桟橋へ出る。見るとそこに泊まっているのは、先ほど消えた作業服の男が櫂を握る小舟なのだった。男は相変わらず目を閉じている。この船で私は君に会いに行けるのだろうか。チケットを手にためらう私は、ふと視線を落とし、腰にまとわりつく重いものが老婆ではなく、へその緒からませた赤子であることを知るのだった。「これでは、船に乗れるわけがない。」生まれてしまった赤子を拾い上げて抱く。つるりとした温かい感触は、なぜかよく知るものだった。波音の合間に男の足元で紙袋の倒れる音がして、見ると小舟は今しがたこぎ出されたばかりだった。目を閉じた男は眠っているように揺れ、その揺れに従って櫂が押し引きされる。波は穏やかだが、この男は間もなく海に落ちるに違いないと思われて目が離せない。腕の中の赤子がかすかに動く。このあと私は、さっきの窓口の女に頼んで湯を使わせてもらおうと思っている。長く伸びたへその緒はまだ、私と赤子をつないだままだ。不思議と痛みはないが、早く処置した方がいいと思う。思いながらも、いつ落ちるか分からない船の男が気になって、その場を去ることができないでいる。合わないメガネのせいで、離れて行く小舟は少しずつぼやけて行く。メガネに手をかけてよく見たいたいが、赤子が滑って手を離せない。目を凝らした小舟の中に、そのとき私は、男の足元にもう一人乗り込んでいるのを見るのだった。あちら向きに座り込んでいる肩と頭は女のようだ。揺れる小舟の縁を掴んでいる爪が赤く塗られているのだけがなぜかくっきりと見え、私はその船が、この港を出る最後の船であったことに気付くのだった。





17:01:31 | 未分類 | コメント(0)

 2006.07.25 Tue






      絵日記

 ようちえんからもらってきたかぶ
とむしが、きにのぼっていました。
いっぴきはしんでしまったので、お
そうしきをしました。のこったかぶ            お泊まり保育
とむしのなまえはじろうにしました。
                         あー、たのしかった。
                        ぼく、幼稚園の子になりたーい!





                     蝉

                 せいせいせいせい
                 せいせいせいせい
                 って鳴いてるね。











20:50:48 | 小さき人たち | コメント(1)

 2006.07.26 Wed






心楽しいことを 1日ひとつ

よく似た会話や
いつもの服装や
代わり映えのしない献立や
ただ繰り返すだけの日課や
言い古した小言や
聞き飽きた愚痴や
変わらぬ状況や
守られぬ約束の中に

心楽しいことは 1日ひとつ あればよい














23:18:33 | 未分類 | コメント(1)

 2006.07.28 Fri






今日は楽しかった
楽しかったから
明日も今日だったらいいのに


      ああ きみなら
      同じ一日が二度訪れても
      心底楽しめるかもしれないね


明日があさってになって
今日がもう一回 来たらいい


      こうして子どもは
      いつも今にとどまりたがる
      その尻を叩いて
      次へ進めと
      明日に向かえと
      はやく大人になれと 追い立てる私
      は
      そんな君のすてきなつぶやきを
      今にとどまってずっと聞いていたいと思う














18:22:12 | 小さき人たち | コメント(0)
| HOME |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。